エド&リーのブログ

別居中のアラフォーゴーストライターです。生き様もほぼゴーストです。結論の出ない話多めです。

それの在り処(1)

第三者から見れば、いや、きっと自分でも大したことではないと思ってはいるのに、なぜか消し去ることのできない、いや、なぜか消えることのない記憶がある。

それは記憶と呼べるのかもわからない。記憶ではなく感情なのかもしれない。それが一体何なのか、この身体の何処にあるのかもわからない。

子どもの頃、おそらくあれは小学校低学年の頃だろう。小学校の行事で、歩いて行ける近所の山に遠足に行った時のことだ。その日、母が作ってくれた弁当の中に、前日の夕食の残りの鰻の蒲焼がひと切れ入っていた。私はその鰻の蒲焼を口に運ぼうとしたのだが、なぜかその鰻の蒲焼を地面に落としてしまった。鰻の蒲焼には土が付き、食べることができなくなってしまった。私はその頃鰻を好きでも嫌いでもなかったが、鰻がそれなりに高級な食材であることは知っていた。食べられなくなった鰻を見て、私は非常に残念な気持ちになり、後悔をし、恥ずかしくなり、悲しくなった。もはや原型をとどめていないその鰻すら可哀想になり、切なくなった。いや、それはもっと別の何かだったかもしれない。結局その鰻の蒲焼は持ち帰ったのか、何処かに捨てたのかは覚えていない。しかし、その時のことは今でも思い出すことができる。

その別の何かかもしれないものは、30年以上経った今でも私の身体の何処かに存在し続けている。いや、ひょっとするとこの身体の何処にもないのかもしれない。だだ、確実に今、こうして私はそのことを考えている。それはまるでパイル地のタオルケットに、足の爪の先の、ほんの小さな尖った部分が引っかかった時のような、ほんの小さなことなのに、一瞬ドキっとするような何かだ。そしてその足の爪の先のほんの小さな尖った部分によって引き出された一本の糸は、広い海原のようなタオルケットの中でずっと引き出されたままになる。仮にその糸を断ち切ったとしても、きっとその糸があった場所は、目を凝らせばわかるだろう。

それの始まり

カブトムシの幼虫を育てるのはそれが初めてではなかった。息子がまだ幼稚園児だった頃、年少組の終わりごろに、同じクラスの女の子のお母さんが、引越しをするので誰かカブトムシの幼虫をもらってくれませんか、とクラスのグループLINEで尋ねてきたのだ。その一家は旦那さんの転勤でアメリカに行くとのことだった。当時カブトムシの飼育について何も知らなかった私は、ひとまず息子に幼虫のことを話したのだった。まだ言葉も話せぬうちから好奇心旺盛だった息子は、当然幼虫を引き取ると言った。

春とはいえどもまだ肌寒い休日に、私は夫が運転する車の助手席に座り、その女の子が住む幼稚園近くの大きなマンションまで出向いた。その頃は息子も娘もまだチャイルドシートに座っていた。そのマンションのすぐ傍には小さな墓地があり、その墓地の前で飼育ケースに埋まった幼虫を貰った。海外に持って行くことができなかったからであろう、3本ほど虫や魚を採る網も貰った。

雄か雌かよくわからないんだけど、とそのお母さんは言っていたが、それから数ヶ月後、3匹のうち1匹だったか2匹だったか、上手い具合に幼虫は雄と雌の成虫になり、その夏の終わり、数十個の卵が産まれた。そして私は誰に言われるでもなく、気が付くとその数十個の卵を育てていた。当時住んでいた分譲マンションの部屋は1階にあり、車が2台ほど停められるくらいの小さな庭があった。私はその冬、何度かその庭で幼虫の土を入れ替えた。幼虫たちは時間の経過と共に少しずつ大きくなり、また、少しずつその数は減っていくのだった。

リビングの隣にある和室の、おもちゃ置き場のIKEAの棚の上は、カブトムシの幼虫が入った飼育ケースがずらりと並んでいた。100円ショップで500円で買ったケースが6個ほどあったと思う。そして初夏になり、カブトムシは成虫となった。何匹成虫になったかは忘れたが、そのうちの何匹かは誰かに譲ったりもした気がする。そしてまた雌のカブトムシは卵を産み、私はまた誰に言われるでもなく、数十個の卵を育てようとしていた。ただ、土に水を含ませすぎたのか、結局何がいけなかったのかはわからなかったが、卵は冬になる前に全滅してしまったのだった。命を絶やしてしまったという罪悪感の一方で、カブトムシの世話から解放されてホッとした自分もいたことを覚えている。

そして去年の7月の終わりのある朝、第二公園にカブトムシが落ちていたと言って息子が立派な雄のカブトムシを持ち帰ってきた。雄だけなので卵を産む心配もないと思い、私は家で飼うことを認めた。しかし、夏休み明けのある日、息子が同じクラスの男の子から雌のカブトムシを貰ってきたのだった。なぜくれたのかと息子に尋ねたところ、産卵をして来年の夏に成虫になったらその時はその成虫をその男の子にあげることを条件に貰ってきたとのことだった。一度カブトムシをイチから育てた経験のある私にとってはなんだかその男の子にとっては都合のいい話だなとも思ったが、もう9月に入っていたということもあり、それほど卵を産むこともなかろうとその番を飼うことにしたのだった。結局のところその雌のカブトムシは40個近く産卵し、そのうちの19個が今年の5月27日から6月5日にかけて成虫となった。その内訳は雄が7匹、雌が12匹だった。

(つづく)

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